2011年02月18日

020:閑話休題(合気道のお話し)

■黒岩洋志雄先生の合気道
〜「あたりまえ」ということ〜

 黒岩洋志雄先生というと、「ああ、合気道にボクシング理論を持ちこんだ人」という評価をたびたび耳にいたします。
 黒岩先生の合気観を「ボクシング理論云々」と評するのは、ただちに間違いというわけではないのですが、ひかえめに言っても、きわめてものたりない評価であると断じせざるを得ません。最低限の必要条件さえ満たしているとは言い難い、したがって十分条件からは程遠い評価であると、こうした文章や感想を目にしたり耳にしたりするたび、非常に残念な気持ちにさせられます。

 先生は合気道に独自理論をとってつけたのでもなければ、それによって一風変わった合気スタイルを創り上げたわけでもありません。
 黒岩洋志雄先生こそは、高度な合理性に照らして合気道のパズルピースを余すところ無く整理された稀有な指導者であり、決して色褪せることのない素晴らしい合気観を完成させた功績者であると、私は信じております。

 私は、黒岩先生が合気道に持ち込まれたのは、「人体力学」に類するものだったと捉えるべきではないかと思うのです。それもとびきり良質な。
 すなわち、
 (1) 崩される側の体勢についての整理、
 (2) 崩す側の身体のはたらきの最適化・最大化、
 (3) さらにその両者を組み合わせた技法群の体系化と、
 (4) 修得方法の明示
 ──です。
 ボクシングも当然にその中に含みつつ、それだけに限定されたものではない、ひろく多分野・他分野に通じる「普遍的な」理論です(※)。

 先生は常々「あたりまえのこと」という言葉を口にしていらっしゃいました。
 他に転用・応用の効かないような特殊性を尊しとせず、「あたりまえであるからこそ合気道は素晴らしい」とされた先生のお言葉は、聞く者に、謙虚で柔軟な気持ちを思い出させてくれます。
 ヒントはどこにでも転がっており、何からでも学ぶことが出来、それは「あたりまえ」であるがゆえに何にでも生かすことが出来る。
 この「あたりまえのこと」──あまねくどこにでも存在しているはずの法則に沿って我が身を運用して行くことこそが、黒岩洋志雄先生の合気道なのでしょう。

 もちろん実際には、合理的だからといって体現が易しいわけでは断じてありえず、稽古や日常生活での失敗や試行錯誤の積み重ねのなかで、徐々に誤差を減らし精度を高めてゆく他ないことは、言うまでもありません。普通は。
 これに対し、まる1年におよぶ入院生活から退院して即、ご入院前と同じ速度・精彩で実技指導をされた先生の姿は、ちょっと間を空けるとたちどころに精度の落ちてしまう私には、植芝翁の「ワシが動けばそれが合気道じゃ」というお言葉そのもののように感じられました。
「天才」という言葉は、その人の努力の量に対する想像力の欠如であるとともに、努力によってそこに近づこうとする意思の放棄にも便利な、使い勝手のよい言葉です。そのため、何かを学ぶ身としてあまり安易に使うべきではないと思うのですが、それをふまえた上でなお、一種特別な存在でいらっしゃったことは間違いありません。

『合気道ひとりごと』様という大先輩が黒岩先生の教えを素晴らしい文章で公開されているなか、分不相応にもこのような所感をわざわざ文章に起こしましたのは、何のことはありません。最近冒頭のような黒岩洋志雄像を(その人に全く悪意はないにせよ)耳にして、その場でうまく説明出来なかった歯がゆさのためです。
 一度こうして自分なりに整理しておけば、次の機会にはきっとうまくお話しできるはずだと思いまして。

 そのうち今日の文を見返して「ああ、あんなおかしなことを書いてしまった」と自分で眉をひそめることになるのかも知れませんが、稽古を通じて理解が進めばむしろ重畳だと考えることにいたします。その都度訂正してまいりますので、先生の高弟にあたる師範の皆様や先輩・道友諸氏におかれましては、何卒ご容赦のほどをいただきたくお願い申し上げます。(ご指摘やご教示をいただければ、なお幸いに存じます。)

 というわけで、脈絡も無く個別技法でない大枠の合気道のお話をはさんでしまいましたが、次回はあらためて岩鶴解釈の続きです。


※…しかも特筆すべきは、体系を支える理論や法則がむやみに多くなるどころか、その展開のよりどころとなる動作がたったの2種にまで集約されるという点でしょう。極言すれば1種にまで還元できるとおっしゃるのですから、驚嘆すべき普遍性であると思います。
posted by 秋山勇浩 at 01:33| Comment(2) | 合気道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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