2016年02月24日

098:稽古と安全配慮義務(番外):武具の目的外使用について

 そういえば先日書いた『094:稽古と安全配慮義務』から「刀」つながりで思い出したことが。

 このあいだ区内の体育施設に赴いたとき、駐車場に少年野球のチーム名が書かれたワゴンが止まっていたんですよ。
 通りすがりにふと目に止まったのが、車内に転がっていたむき出しの竹刀。
 確認するまでもありませんが、バットの代わりになる代物では絶対にないですよね。

 いったい何に使うおつもりなのですか?

 非常に、非ッ常〜〜に!! 不愉快な気持ちになりました。
 お前ら剣術なんかやってねぇだろ、ふざけんな!!…と。
 竹刀は、剣術を志す者同士が互いを高め合うために使うものであり、支配的な立場にある大人が子供を折檻したり、脅して言うことを聞かせたりするために使う薄汚れた道具ではありません。断じてそのようなものではありません。竹刀に触るな。
 かような用途に疑問を持たない犯罪者およびその予備軍は、即刻、青少年育成の場から身を退き、警察に自首していただきたいものです。

 いやホントに。

 軽犯罪法1条2号
 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
 ──これを拘留又は科料に処する。

 少年野球の指導のために竹刀を使うことが、果たして「正当な理由」として認められるのでしょうか。言うまでもありません。
 それ以前に、真剣・居合刀はもちろん、木刀や竹刀であったとしても、携行時にはケースに収納してきちんと管理する義務があります。車内に無造作に転がしておくこと自体が違法行為なのです。ものの例えでなく犯罪者。
 実際、座席に木刀を転がした車で稽古に出かけようとして、職質を受けた知人がおります。
 携行理由を詳しく聴取された上で見逃されはしましたが、「持ち運びの際は必ず袋に納めるなどするように」と警察から厳重に注意を受けたと言っておりました。当然ですね。※
 少年野球のコーチが同じ職質を受けたらどのような言いのがれをするつもりなのでしょう?

「言うこと聞かないガキをしつけるため」
 …などと言えるわけがないですよね。児童虐待の自白も同然で即座にしょっぴかれるでしょうから。

「野球の指導のため」
 …竹刀がないと出来ないような指導とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
 大いに疑わしい話です。詳しくうかがうためちょっと署までご同行を強要されそのまま逮捕されていただけますか?

 とにかく不愉快です。
 いったいどんな了見なのか、分かりたくもありませんが、逮捕が妥当な違法行為に武道の道具を使うのは即刻やめていただきたい。
 剣術に関わる全ての人々──稽古に励む者はもとより竹刀メーカーから刀剣の職人に至るまで、ありとあらゆる関係者──に対する侮辱・冒涜です。
 さらに言えばそれで社会問題になって必要な道具が規制されでもしたら、文化の継承に関わる重大な障害です。
 迷惑どころの話ではありません。いらんことをするなと。
 そんなに体罰がしたければ野球には金属バットという立派な凶器があるじゃないですか。好きなだけ活用してお縄を頂戴して、規制の対象も野球業界内で完結してください。

 そのようなチームに我が子を託す親の気持ちも理解できません。
 あなたが「監督」「コーチ」と呼んでいるその相手はまぎれもない犯罪者や予備軍ですよ。

 この次そういう輩を見かけたときには通報ですな。
 市民の義務であるとともに、稽古人の責務でもあると理解しております。


※…「稽古に必要なものだし悪いことになんか使わねえよ」とプリプリ怒ってましたが、実際に悪事を働くつもりがあるかどうか、心の中を覗いて確認することが不可能である以上、持ち運ぶときは「使えない状態」にしておけと指導するのは当たり前のことです。

posted by 秋山勇浩 at 23:44| Comment(0) | 道具 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月19日

094:稽古と安全配慮義務

 2/15(月)に帰国しました。
 ちょうど同じ日、模造刀でたいへんな事故があったようですね。

 日子流の組太刀稽古に用いられる居合刀。
 田中光四郎先生がハンガリー支部にお渡しになったものを、都合により拝借してきたもので、この機会に紹介しておきます。
 2_R.jpg
(鞘に破損がみられるので修繕せねばなりません。それはまた今度)
 
 頑丈一点張りのつくりで、いくらブチ当てても折れない抜けないことがウリで、事実ビクともしません。
 刀身は特注の特殊合金性で、強い打ち込みを受ければ刃に食い込みはしますが、欠けて破片が飛んだりは決してありません。(※1)
 もちろん刃はついていないので斬れることなどありません。ただし食い込んだ跡のギザギザは放置しておくと危険なのでこまめに手入れを致します。

 演武の見映えのためではなく、より真剣に近い稽古をより安全に行うための道具です。
 間違っても刺さるような事故が起きてはならないので、したがって切先は丸めてあります。(元々は尖っておりました。)
 1_R.jpg

 それこそ見映えは悪くなりますが、「見映え」と「安全性」とのトレードオフは断じて許されるものではないからです。
 さらに言えば、木刀での稽古を充分に行った上で、その次の段階での稽古に用いております。こんなものを額に食らえば割れて流血するだけでなく、悪くすると骨がいってしまいます。小手であっても同じこと。

 木刀なら軽々と振り回せるところを、実際には合理的に操作せねばならないということ、打ち込みの重さは小手先ではなく身体で吸収せねばならないということを、体感し理解するための道具です。
 こうしたことを知識ではなく経験として学びたいがため、しかしながら真剣で行えばたやすく大事故につながりかねないがための代替手段です。

 武道というシステムは構造的に危険がつきまといます。これは「脅威に対処するための体系である」ことに由来する構造的な問題で、切り離しようがありません。
 なんらかの想いや必要性あるいは必然性に駆られてそのようなシステムを学ぶ際、だからこそ修得の過程においては最大限の安全配慮があってしかるべきです。
「護身の練習で死にました」では本末転倒はなはだしく、一体なんのための稽古か分からないからです。

 殺陣は、言うまでもなく脅威に対処するための体系ではありません。にもかかわらず、修得の過程における危険性への配慮が武道よりも劣悪であるというのはいかがなものでしょうか。
 もちろん、役者にとっては生活の糧ですから、そこらのぬるい武道愛好家などより役者の方がよほど厳しい稽古をしているということはあるかもしれません。しかし稽古の厳しさと危険性は、決して比例の関係ではないということを理解せねばなりません。

 繰り返しますが、「見映え」と「安全性」とのトレードオフは断じて許されません。
 娯楽の対象として殺陣に「見映え」は必要なことではありましょう。が、竹光が軽いというならば、それがあたかも重いものであるかのごとく観客の目に映るよう演技を工夫すべきであり、役者においてはその「本当らしい嘘」こそが腕の見せ所であり技量というものではないでしょうか。
 動作が軽く見えぬよう実際に重量物を手にするというのはいかにも安易な発想で、臨場感の追求ではなく演技上の怠慢でさえあるように思われます。
 しかもその重量物が金属製で先端が尖っているなど、怠慢の上に安全配慮義務違反まで重ねており、これは起きるべくして起きた事故であるとしか言いようがありません。(※2)

 昨今は刀剣を手にしたコスプレが流行のようですが、恰好よさげなポーズばかりでなく、どうか基本的な作法・礼法くらいは関心をもっていただきたく存じます。
 これらの手順には事故防止のための知恵がわんさとつまっているからです。
 そういうものを理解されれば、たたずまいにも自ずとそこはかとない深みが漂い、それこそ恰好よくなること間違いなしと思料いたします。
 役者やコスプレイヤーの皆さんは、ぜひ作法・礼法等について調べてみてください。
 出来ればきちんとしたところで学ぶのが一番ですが、ネットで調べるだけでも、するとせぬとでは話がまったく違ってまいります。ぜひに。

 さてひるがえって我々稽古人のことです。稽古にあたっては危険性や起こりうるアクシデントを充分に理解・想定し、道具そのものの必然性や安全性を見直し、また怠ることなく手入れを行い、自らと周囲に十全の気配りを欠かさぬよう、少なくとも声の届く範囲の仲間にはそれを行き渡らせねばなりません。
 気を引き締めてまいりましょう。
 
 身の程もわきまえず批判じみたことを書きつらねてしまいましたが、最後に、亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。


※1…以前試斬台のことでリンクを張らせていただいた「渓流詩人の徒然日記」様の別の記事では、フルフェイスヘルメット着用の上で真剣(刃引き)を使っての打ち合いを試したところ欠けた金属片が飛んでいくつもヘルメットに刺さったという実験結果が掲載されています。
「目に入ったら失明もしていたことだろう。」と。
 組太刀を行う際は、刃さえ潰しておけばよいというものではなく、金属素材の粘り具合も、きわめて優先順位の高いファクターとなるようです。

※2…現時点での意見であり、いずれ詳報によってはこの点を訂正する必要が出てくるかもしれません。
 ですがまた、はたして亡くなられた方が自発的にそのような稽古を望まれたのか、それともそこに指導者の強要や無言のプレッシャーの類がありはしなかったかも、非常に気になるところです。
posted by 秋山勇浩 at 01:10| Comment(0) | 道具 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月04日

073:寒稽古日記(2) 〜冬場の友〜

 あけましておめでとうございます。
 
 
 写真 1_R.JPG
 前回ちょこっと触れたzippoハンディーウォーマー(写真中央)。サイズは縦横厚みともちょうどスマホくらい。(※1)

 首から下げたのがミゾオチあたりにくるよう100均購入のケータイストラップを付けている。これを襟元からワイシャツの内側、Tシャツの外側に放り込むと、道場に着くころにはジョギングを終えたくらいに血流が暖まっている。

 zippoオイル等のベンジン燃料で発熱するが、アルコールランプのような「炎」ではない。プラチナ触媒によってオイルが水蒸気と二酸化炭素に分解する際の反応熱によるもので、使用開始時にライターであぶるのは着火ではなくその初期反応のため。あとはその熱で連鎖的に反応が進む。
 寒い時に使うのに低温だと鉄粉の酸化が止まるという、使い捨てカイロのような残念な欠陥はない。発熱量も文字通りケタが違う(約13倍といわれている)。熱の上昇速度も素早い。また使い捨てと違い毎度のゴミも出ず環境負荷も低い。燃料の空き缶は大部分がリサイクルされることだろう。

 写真 2_R.JPG
(フタを取ったところ。つまんでいるのが触媒部分。奥に写っている白い計量カップでオイルを入れる。※2)

 身体の暖まっていない状態でいきなり負荷をかけるとスジやら何やら傷めかねないが、運動しないことには身体が暖まらないという、「卵が先か鶏が先か」問題が、冬場は特にある。気を付けて徐々にやればいいのだろうが、せっかちなところがあるので正直面倒くさい (はずかしながら実際それでスジを傷めたことがある)。
 このアイテムは非常に確実性の高い解決策の一つだ。
 メンテ<不要>、熱量<大>、ランニングコスト<小>、出先でうっかり燃料をきらしてもコンビニで買えるという<確実>かつ<容易>な入手性もありがたい。キャンプや登山の愛好家、バイク乗り、外回りの営業マンはもちろんのこと、モノグサな全ての稽古人にもオススメ。
 言うまでもないが稽古着に着替えたら外す。あくまで道場までの道々の友である。

 ちなみにzippoと銘打っているが、中身は孔雀のマークでおなじみ(?)のハクキンカイロによるOEM製品であるらしい。
 ハクキンカイロといえば、私には祖父が生前愛用していた姿が思い出される。満州帰りだった祖父とセットで連想されるハクキンカイロには、寒冷地や過酷な状況下を耐えきった実績にもとづく高い信頼性のイメージがある。………が、

 しかし、zippoの方が刻印や通気孔のカットが断然かっこいい。

 peacock_ws3-2_R.jpg
ハクキンカイロHPより転載。写真左がそれ。)

 外寸は全く同一らしく、デザインの差としてはほんのわずかなものであるはずなのだが、見た目の差は断絶的だ。
 たぶん老人になっても自分はzippo派だろう。おじいちゃんゴメン。


※1…iphone6、大きいですな。5sの方が好きだったのに、キャリア乗り換えキャンペーンの商品券が大きく、家計のため泣く泣くキャリア&機種変更。設定やらデータ移行やらめんどくさくてかないません。
 そういえばzippoの変更されたパッケージってiphoneを意識しているような気が…

※2…目盛1つ約6ccで約6時間。1カップ2目盛で12時間。2杯(24cc)までOKで24時間と、覚えやすいのもポイントです。
posted by 秋山勇浩 at 13:16| Comment(0) | 道具 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする